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研究レポート
管理職にこそ求められる「上司を動かす力」
多くの企業が管理職育成に「部下をいかにリードするか」という観点を重視してきました。しかし、経営層の意思決定を現場で実現し、組織全体の成果を最大化するには、管理職においても「上司や組織をいかに支え、時に動かすか」というフォロワーとしてのスキルが不可欠です。本レポートでは、非管理職だけでなく管理職のフォロワーシップの実態について提示します。
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 研究員
目次
「管理職への昇進」は一般に、組織を牽引するリーダーとしての役割が本格化する節目とみなされます。そのため、企業の人材育成や評価制度も「いかにリーダーシップを発揮するか/させるか」という点に主眼が置かれがちです。しかし、組織の階層構造を客観的に観察すると、課長には部長、部長には役員、役員には社長というように、組織のトップを除けばすべての管理職に必ず上司が存在しています。多くのビジネスパーソンは役職によらず組織内では「誰かのフォロワー」なのです。
ここで、フォロワーシップという概念をアップデートする必要があります。ここ30年ほどの間に研究が進んできたフォロワーシップ理論に基づけば、フォロワーとは単に指示に従う人ではありません。組織の成果を高めるために、上司を支え、時には建設的な意見を伝えながら、組織をより良い方向へ導く存在です(Kelley, 1988)。このようにフォロワーシップとは、受動的な服従ではなく、主体的行動、独立した思考、そして組織への貢献から成る能動的なプロセスなのです。
さらに近年の学術研究では、フォロワーシップは固定的な「役職(Role)」ではなく、リーダーとの関係性のなかでダイナミックに構築されるプロセスとして捉え直されています(Uhl-Bien et al., 2014など)。フォロワーシップは単に上司とうまくやるための処世術ではなく、組織成果を最大化するために、上位者へ主体的かつ建設的に働きかける行動そのものを指します。実際、フォロワーシップの発揮は個人や組織のパフォーマンスを予測する重要な要素として、経営学・心理学の領域で改めて重要性が指摘されています(Leroy et al., 2015; Oc et al., 2023)。
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管理職の階段を上れば上るほど、現場を率いる力以上に「上位者を支え、時には突き動かす影響力」の行使が組織の成果を大きく左右する場面が増えていきます。管理職は、部下を率いるだけでは不十分であり、経営層の意思決定を現場で実現するために、上司や役員にも主体的に働きかける役割を担っています。現場のリアルな課題やリスクを上層部に怯まず伝え、必要であればより良い代替案を提言する。こうした「上方向への影響力(upward influence)」の行使こそが、管理職に求められるフォロワーシップといえます。経営層の意思決定を現場で支え、時には軌道修正すら促すこの管理職の働きかけこそが、組織が正しい方向へ進む鍵なのです。
では実際に、管理職はフォロワーシップを発揮しているのでしょうか。今回、日本のビジネスパーソン(N=1,500)を対象に、役職とフォロワーシップの関係を検証する調査を実施しました。「日本版フォロワーシップ尺度(西之坊, 2024)」を用い、フォロワーシップを構成する「主体的関与」「批判的思考」「配慮的行動」の3要素について、非役職・課長相当・部長相当の各層で比較を行いました。
結果は図表1が示す通り、管理職層(課長・部長)は非役職層と比較し、上記3要素のすべてにおいてスコアが高い傾向が確認されました(Multi-Group SEM:Δχ²(8) = 16.44, p <.05)。この結果から、役職が上がるほどフォロワーシップに対する自己認識が高い傾向がみられ、「フォロワーシップは部下だけのものではない」ことが示されました。このことから管理職が「部下を率いる力」だけでなく、「上位者に働きかける行動」を自ら発揮している状況がうかがえます。つまり管理職とは、「部下を率いる人」であると同時に、「上位者に主体的に働きかけるフォロワー」でもある可能性を示唆する結果となりました。また、リーダーシップとの関連が想像しやすい「主体的関与」のみでなく、「批判的思考」「配慮行動」を含むフォロワーシップの3因子すべてで有意に高いという結果であることから、役職が高いほど、単に上司に対し積極的に働きかけるだけでなく、上司に対する批判的な検討や、意思決定を支えるための配慮を行っている可能性が示唆されました。
この調査結果を、人事戦略の観点からどう解釈すべきでしょうか。本調査は一時点を切り取った横断調査であるため、「フォロワーシップが高い優秀な人材が昇進したのか」、それとも「昇進後に新たな役割に適応するなかでフォロワーシップが伸びたのか」、明確な因果関係を断定することはできません。また、あくまで自己評価による測定のため、実際の行動そのものではなく、「自身がフォロワーシップを発揮していると認識している傾向」を示している点には留意が必要です。
そのうえで、実際の職場を考えると、役職が高いほどフォロワーシップが高いという結果には、以下の3つの要因が関係していると考えられます。
1つ目は、「管理職になるとフォロワーシップが求められる場面が増える」ことです。役職が上がるほど、部門を代表して上司や役員に提案することや、関係者との調整を行う機会が増えます。
2つ目は、「管理職になってからもフォロワーシップが鍛えられる」ことです。上司と部下の間で板挟みになりながら仕事を進めるなかで、上位者への働きかけ方や組織全体を見渡す視点が自然と身についていきます。
3つ目は、「もともとフォロワーシップの高い人が管理職に選ばれている」ことです。上司に対して建設的に意見を伝えられる人や、組織全体を見ながら行動できる人が、将来の管理職候補として評価されやすい可能性があります。
実際には、これらのどれか1つが正しいというよりも、複数の要因が重なっているのではないでしょうか。だからこそフォロワーシップは、「昇進前に注目すべき行動特性」であると同時に、「昇進後に育てるべき能力」でもあります。管理職への昇進を支えるだけでなく、管理職として成果を上げ続けるための基盤にもなり得るからです。
フォロワーシップは一部の人間が持つセンスではなく、後天的に育成可能な行動特性であると考えられています。フォロワーシップ理論の提唱者とされているKelley(1988)は、組織はリーダーだけを育成するのではなく効果的なフォロワーを意図的に育成する必要があると主張しています。
では、職場で求められるフォロワーシップとは、具体的にどのような行動なのでしょうか。各階層で期待される具体的なフォロワーシップ行動の例を示します。
これらはリーダーシップ(主に部下への影響力)では測れないものの、組織の運営に欠かせない行動です。これを踏まえると、管理職育成のプロセスにおいて、リーダーシップ(部下への影響力)研修だけでなく、フォロワーシップを高めることに意識を向けた研修を導入することが重要であるといえます。例えば、上司との建設的コミュニケーションの取り方や、上方向への影響力の行使方法を育成項目に組み込むことが有効です。
この点で効果的なのが360度評価の活用です。管理職のフォロワーシップは上司・同僚・関連部署との関係性のなかで発揮されるため、上司評価だけでは捉えにくい場合があります。例えば、周囲への影響力の発揮、必要な場面での主体的な提案・進言、部門間の調整行動といった観点を360度評価の項目として組み込むことで、管理職に求められるフォロワーシップを可視化しやすくなります。
組織としては、「部下を適切にマネジメントしているか」だけでなく、「組織全体の成果のために上方向・横方向への影響力を発揮しているか」という視点を評価やフィードバックの対象に加えることが重要です。評価項目として明示することで、組織が成果だけでなく、その成果を生み出す行動プロセスも重視していることを社員に伝えられるためです。
フォロワーシップの発揮には、社員が安心して意見や提案を出せる職場環境が欠かせません(松山・森, 2022)。どれほど評価制度を整えても、率直な発言による不利益を社員が懸念している環境では、主体的な提案や進言は生まれにくいからです。フォロワーシップを育むには、制度面だけでなく心理的安全性の高い職場づくりにも同時に取り組む必要があります。
本調査が示したとおり、フォロワーシップは決して若手や部下だけのものではなく、管理職の階段を上るほどにその重要性を増していきます。
だからこそ、まだ管理職になる前の中堅社員の段階からフォロワーシップを意図的に育むことで、将来の管理職候補の育成につながることが期待できます。中堅の段階から「周囲を動かす力」と「上司へ主体的・建設的に働きかける力」の双方を並行して育てる視点を取り入れることが、これからの組織開発には求められるのではないでしょうか。
Kelley, R. E. (1988). In praise of followers. Harvard Business Review, 66(6), 142–148.
Leroy, H., Anseel, F., Gardner, W. L., & Sels, L. (2015). Authentic leadership, authentic followership, basic need satisfaction, and work role performance: A cross-level study. Journal of Management, 41(6), 1677–1697.
Oc, B., Chintakananda, K., Bashshur, M. R., & Day, D. V. (2023). The study of followers in leadership research: A systematic and critical review. The Leadership Quarterly, 34(1), 101674.
Uhl-Bien, M., Riggio, R. E., Lowe, K. B., & Carsten, M. K. (2014). Followership theory: A review and research agenda. The Leadership Quarterly, 25(1), 83–104.
松山一紀・森勇貴(2022).フォロワーシップ行動と心理的安全性.評論・社会科学,141, 31-48.
西之坊穂 (2024). Conveyed Psychological Capital がフォロワーシップに及ぼす影響―EASI モデルを応用した経験的研究―. ビジネス・マネジメント研究, 20, 47-66.
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